TOEICのスコアが900点を超えるまでの経緯

 こんにちは。生物系大学院生のナマコです。大学院進学にあたりTOEIC L & R(以下、TOEICと表記)のスコア提出が必要であったため、大学在学時にはTOEIC対策の勉強にも幾らか取り組んでいました。大学の過程上必須であったTOEIC BridgeとTOEIC IPの受験(Bridgeは入学直後に1回、IPは確か2回やった覚えがあります)を除いては個人で3回受験し、最終的には4年に上がる直前、3年の3月に受けたテストで935点を獲得することができました。本記事では、TOEICのスコアで900点を超えるまでの経緯とその過程で行っていた勉強について紹介します。

 

 

1. 大学入学時の英語力とそれまでの英語学習

 今でこそ英語学習は結構習慣化してますし、勉強もそこそこ楽しんでやっているのですが、この現状に至るには浪人・大学時代の生活が不可欠でした。翻って、高校まではろくに勉強していませんでした。そこから英語学習を意識し始め、大学入学時には確かセンター試験(現:共通テスト)の英語で8割程度をとる程度の英語力までには到達しました。その過程で得た気づきを共有したかったので、あえて大学入学前の英語学習についてここで触れておこうと思います。

 私が在籍していた高校はいわゆる自称進学校で、そういった雰囲気の公立高校に滑り込み、ずっと底辺にいました。経験しているのでよく分かるのですが、この層の人間は、基本的に度を超すほど怠惰であるというか、自己管理能力がかなり低いことがしばしばです。実際、当時の私はろくすっぽ努力した経験もなく(あってもその程度が低い)、自己管理能力が(これは今になってもですが)相対的にかなり低い。更には知り得る世界の幅が狭いので、何事にも極めて楽観的であまり苦を伴う努力はせず、努力を諦めてすらいる、といった有様でした。また、生活リズムが破綻していたので、慢性的な睡眠不足の下よく授業中に寝ていました。故に、学校側から幾分多めに課題を出されたり、小テストなどで学習の進捗を細かく管理されたりする(いかにも自称進学校らしい)環境であっても、ろくに学力は向上しませんでした。ただ、印象深いのは高校2年か3年のどこかで英語と日本語で似通った表現があることを知ったことで、これが英語学習に面白さを見出す転機になったと思っています。この記憶は間違っている気もするのですが、教科書か参考書か何かで、"make a mark"の日本語訳が『目星を付ける』だったこと、これを見てなぜか妙に納得したことがきっかけでした。その後、これは大学受験の英語だと結構有名だと思いますが、『一石二鳥』が英語では"Kill two birds with one stone"とまったく同じ言い回しであることなどを知り、言語の繋がりや歴史に対してやおら興味を持つようになりました。実際、『目から鱗が落ちる』なんかもその表現の由来は聖書ですし、表現の輸入の歴史は結構面白いものです。ただ、関心を寄せて英語学習に取り組み始めるのがあまりに遅かったことから、さして学力が上がるはずもなく、なるべくして浪人生になりました。

 壊滅的な状況からセンター試験でとりあえず8割は取れるところまで到達できた背景には、浪人している間に基礎を学び直せたことがありました。上述のように、高校生の頃はろくに授業や課題に取り組んでいなかったので、高校英語の知識には相当な穴がありました。そうでなくとも、授業自体がなぜか(少なくとも英語表現とコミュニケーション英語の内、後者は)英語で行われており、あまり文法などをしっかり解説するといったものではありませんでした。小テストで単語・熟語や文法・語法を確認するので、課題を通して各自勉強しておいてね、といったスタンス。そうした中でまともに課題に取り組んでいなかったので、高校英語の知識が相当に怪しかったわけです。中学英語なら何とかなるが、高校英語となると厳しい。そんな状況を反省し、浪人時は基礎から復習しました。

 浪人生の頃の英語学習ですが、言語の基本はまず単語と文法だろう、と考え、高三になって使い始めたターゲット1900(ターゲット編集部 編、旺文社)をスローペースではありましたが3周程度して、まず英単語をある程度は覚える(理解する)ように努めました。同時に、総合英語 Forest(石黒昭博 監修、いいずな書店)を頼りにしてその他の参考書、例えば基礎 英文解釈の技術100(桑原信淑・杉野隆、桐原書店なども用い、英文法を勉強しました。加えて、アウトプットを通して単語の確認や文法・語法の習得を行うため、英文法・語法 Vintage(篠田重晃・米山達郎、いいずな書店)を解いていました。英作文についても、一応ではありますが基礎英作文問題精講(花本金吾、旺文社)で勉強しました。総合英語(=高校英語の文法書?)と文法問題集は高校の頃のものでしたが、上に挙げた教材をちゃんと復習して土台を固めたらそれなりに受験英語ができるようになったので、やる気がなかっただけで勉強環境は結構恵まれていた高校時代だったんだな、と反省しています。さて、その後はセンター試験や二次試験の対策に移っていったわけですが、これは簡単で、定法に則り過去問演習を主に行っていました。ただ、高三の頃のそれとは打って変わり、浪人時の過去問演習からは学ぶところが多くあり、数をこなす中で問題点とその原因を見つけて改善し、より高得点を狙うという一連のプロセスを久しぶりに体験できました。成功体験はモチベーションの面で重要ですが、これは実に、中三以来だったのではないでしょうか。幸い、読書好きだったおかげか私は英語長文を読むことについて(正しく読めているか否かという問題はさておいて)あまり抵抗がなかったので、長文問題にウェイトが置かれがちな受験英語とは相性が悪くなかった方だと思います。この要素は結構受験の上で大きく、色々問題があったし浪人生の身ながら勉強量が多くはなかったものの(なにぶん勉強習慣とは無縁になって久しい上、生活リズムを整える点でも労を要するといった体たらくでした)、地方国立大学に滑り込めました。浪人時代にある程度勉強習慣を身につけられた(取り戻せた)こと、大学に拾ってもらえたことがなければ現在の英語学習を継続する生活はあり得ず、従って今の私というのは、その大部分が運が良かったという点に依っています。そして、これこそがここで是非とも伝えておきたいことなのですが、大学受験までの英語学習(中学英語・高校英語)はよくできており、英語学習の土台、すなわち基礎となります。これが基礎であり、基礎を固めることではじめて効率良く学習できるようになります。英語の運用能力を上げたいのであれば、かつての私のようにサボったり、ほったらかしにしないでください。

2. 大学在学中に行っていた英語学習(TOEIC受験前)

 大学に入って最初の年はこれと言って英語学習を意識してはおらず、せいぜい必修の英語の講義はきちんと受講したぐらいで、専門課程に入るまで1年間のモラトリアムを楽しんでいました。一応、当時は院進の他、将来学部卒で就活する可能性も結構検討していたため、少なくとも在学中にTOEICで良い点取っておいた方がいいな、とは既に考えていました。そうしたところ、院試の記事で書いたように途中で東大の大学院(農学研究科)に行きたいと思うようになったので、この際にTOEFLの勉強も考え始めるようになりました(入試でTOEFL-ITPを受験する必要があるため)。そこで、とりあえずは単語学習だけでもやっておこうと思いなおし、書店で単語帳を幾つか見てみました。TOEIC対策の単語帳というとTOEIC L&R TEST 出る単特急 金のフレーズ(TEX加藤、朝日新聞出版)が有名ですが、パッと目を通して好みではないと直感したこと、TOEIC Bridge/IPでTOEICの試験自体が好きではないこと(そもそもTOEICのような内容の問題を解くのが好きな人はいるのだろうか?)からこれで勉強することはやめました。代わりに、TOEFLテスト英単語3800(神部孝、旺文社)が難易度やボリューム的に自分にとって必要十分と感じたこと、これまで取り組んできたターゲット1900と形式が近く親しみやすさがあったことからこちらで勉強することに決めました。大は小を兼ねる的発想で、これでTOEICもいけるだろうと踏んでのことでした。もっとも、この選択は正解だったと思っており、TOEFLの方が単語の幅が広く、結果として試験対策に限ったものではなく、対策としては効率が落ちてもより活用できるかたちで英単語学習を積むことができました。このこともあり、目的に対して適切な勉強法というのは常々存在しますが、一方で時間的に余裕があるならば、参考書は幾つか試してみてフィーリングで決めてもいいと私は考えています。自分の中でこれくらいの質であれば勉強に用いるに値するという閾値を定め、自分にとってやりやすい参考書を決めたらそれを用いてちゃんと勉強すること、これが肝要なのだと思います。

 2年に上がったところで、専門科目が始まると共に、せっかく勉強態度を改めて大学に来たのだし、そろそろ勉強に力を入れた方が良いだろう、と感じるようになりました。この頃には英語学習にも結構関心が湧いてきていて、書店で以前よりも広範に英語学習に関する本を探すようになっていました。TOEFL 3800もだいたい1周終えたくらいのある日、ふと書店で英単語の語源図鑑(清水建二・すずきひろし・本間昭文、2018年、かんき出版)を見ては好奇心を搔き立てられ、これと続 英単語の語源図鑑(清水建二・すずきひろし・本間昭文、2019年、かんき出版)を用いた単語学習に一旦切り替えました。以前より英単語の構造には興味があったため、この単語帳は自分にとって適したものでした。収録単語でいうとそのほとんどが既習でしたが、それまでより一層単語のかたちと意味のイメージを意識するようになり、英単語への理解が深まりました。このように、英単語学習では進展があったのですが、英文法はというと特にありませんでした。むしろ、流石に浪人時から1年経っているので知識に不安がある、ということで復習に徹していました。具体的には、高校の頃のForestの後継、総合英語 Evergreen(墺タカユキ 編著、いいずな書店)を購入して通読しました。英文法の基本的な理解については、正直、高校英語までで十分である。これが私の考えです。また、誰かがブログで紹介していた日本人の英語(マーク・ピーターセン、1988年、岩波新書に興味を持ち、この本及び続 日本人の英語(マーク・ピーターセン、1990年、岩波新書も読んでいました。刊行こそ少し古いものの、これらの新書は要点がコンパクトにまとまっており、かなり勉強になりました。結構オススメの一冊です。

 単語・文法についてはある程度勉強も進んだ一方、リスニングに関しては苦手なこともあり、あまり勉強していませんでした。せいぜい、センターなどの過去問演習の際にシャドーイングをしていたぐらいのものでした。大学に入ってからのリスニングの勉強はというと、主には英語の映画や動画(YouTubeやTED、BBC Newsなど)を視聴するというありきたりなものが中心でしたし、その頻度もまばらでした。ただ、TOEICTOEFLを見据え一応試験問題としてのリスニングも解けるようにならなければ、との思いで(結局、TOEFL ITPは受けませんでしたし、iBPを個人で受験することもありませんでしたが)東大の英語リスニング20ヵ年(武知千津子 編著、教学社)を用いて勉強しました。はじめにリスニング問題を解いて、次に答え合わせとシャドーイングを行うといったかたちで、散発的にこなしてなんとか1周終えた覚えがあります。シャドーイングの機会を増やせたのは取り組んで良かった点だと思います。ところで、シャドーイングというとただ喋るのではなく音声の発音を真似ることも大事であり、正しい発音を知り意識することでリスニング力向上にも繋がる、といった感じのことが様々なリスニングの学参に書かれています。確かに一理ある。そこで、私はシャドーイングに加え、英語の発音自体も学ぼうと考えました。ここで手に取ったのがたまたま書店で1冊だけ残っていたフォニックス<発音>トレーニングBOOK(ジュミック今井、2005年、明日香出版社)でしたが、このフォニックス学習を通した英語発音の理解は大変有用でした。この本もオススメです。中学・高校の学習ではここに挙げたような単語の語源(成り立ち)だとかフォニックスだとかはさして注目されませんが、少なくとも私の場合、このような知識の習得は英語学習を確実に加速させてくれました。

 振り返ると、TOEICを個人受験するまでには以上のような英語学習をしていた覚えがあります。色々と書きましたが、何もこれらを短期集中で行ったわけではなく、上に挙げたものを2-3年前期の1年半を通し、休み休みのんべんだらりと継続して勉強していました。また、中には初受験時にはやり切れていない教材も幾つかあったはずです。ともあれ、このような具合で英語学習を自主的に進め、3年の7月に初の公開テスト受験を迎えました。その結果はと言うと、Listening 360, Reading 415の計775点でした。英語学習を始めるのが遅かった身ではありましたが、大学でBridge/IPを受けていて既に形式を知っていたこと、基礎学力を重視して要点を絞って学習したことが功を奏したのか、初受験でもそれなりのスコアを獲得できました。

 

 

3. スコアを上げるために行ったTOEIC対策

 思ったより良いスコアを取れた一方で、もうちょっと頑張れば800点と次の大台に乗れること、残りの院試までの期間を踏まえれば900点以上の獲得も十分達成可能であると思われたことから、この辺りで意識を切り替え、TOEICで点を取るための勉強も始めるようになりました。(英語に限らず)大学受験などの経験を踏まえれば、基礎知識があらかた身についているならば(ここが効率の良さを左右する)、後はアウトプットを通してその知識の使い方を身につけること(あるいはインプットとアウトプットを同時進行でこなして学んでいく)、過去問・模試を解いて自らを任意の試験に対してチューニングすることでスコアが伸びていくはずです。そこで、とりあえず公式TOEIC Listening & Reading問題集 1(一般財団法人 国際ビジネスコミュニケーション協会を購入し、収録されている模試2回を解いてから再度TOEICを受験することにしました。最新刊ではなく1番目の問題集を選んだのは、もしかしたら複数冊購入して解くかもしれないし、それなら初めからの方が良かろう、という思惑があってのものでした。内容としては模試と簡単な解説があるだけのシンプルなものでしたが、解いた後に自分のペースで納得するまで答え合わせができたこと、どこが苦手でどう対策すればいいのかを考えられたことは非常に為になりました。そして、初受験より2ヶ月後、9月に2回目の受験をしました。非常な腹痛に襲われ一時退室、リーディングで数分のロスを強いられるという不幸にも見舞われましたが、結果はListening 385, Reading 455の計840点でした。予想が的中し、模試を通したTOEIC用の対策を積んだらわりあい簡単に800点を超えられました。生物系の院試ではこれくらいの点数があれば、国内のどこであってもそれなりに戦えるだろう、と当時は思っていましたが(実際はこれくらいが求められるところはかなり少ないと思います)、ここまで来たら900点もかなり近いし、せっかくなら9割(990 x 0.9 ≒ 890)以上を取って満足してからTOEIC受験を終えたいとも思うようになりました。そこで、まずは自身の問題点を整理すると共に、更にTOEIC専用の勉強を積むことにしました。

 

 

 この時点で、私のTOEICの出来は次のようでした。1. リスニング能力(特に日本語・英語を問わず瞬間的に聴覚情報を処理する能力)が低く、セクション2の問題での正答率が低い。 2. 一方でセクション3・4はセクション2よりも幾分か文が長い上、文脈から判断できたり複数回答えが示唆されたりするのでそこそこ正答できる。 3. リーディングに関しては、英文を読んで理解すること自体は問題ない。ただし、その読んで理解するスピードが遅いため、しばしば制限時間内に最後まで解き終えることができない。これらの点を改善すべきだという意識の下で書店で公式問題集以外の模試・対策本を見て回り、TOEIC L & Rテスト 究極の模試600問+(ヒロ前田、2020年、アルクが自分に合いそうだと判断したのでこれに取り組みました。ここまでくると本当にTOEICという試験をハックする領域に到達しており、ちょっと抵抗感はありつつも(せっかく英語の勉強をするなら『TOEICができる』で終わらせるのではなく、英語を広く使えるようになりたいという思いがある)、おかげでTOEICで点を取るためのコツ・tipsといったものを多く身につけることができました。このような参考書は、はじめからむやみやたらと取り組むのではなく、伸び悩むところで活用することでこそ真価を発揮するのだと思います。

 同時に、大学生活の方はと言うとこの頃から研究室配属があり、論文を読むことを通して英文に触れる機会が増えました私は論文は基本英語のまま読んでいくスタイルです。初めこそ専門用語や科学論文によく見られるようなちょっとお堅い言い回しもあり、読んで理解するまでにはかなり時間がかかっていましたが、慣れてきたら案外、英語のままでもさほど抵抗なく読めるようになりました(データや理屈の解釈には時間がかかりますが)。論文を読むことよって英語長文に慣れ、つまりは読むスピードが上がりました。文の内容や難易度がTOEICのそれとはまったく異なることは明らかですが、副次的にTOEIC対策となりました。このような対策を積んだ上で、最後、春休み中の3月に3回目のTOEICを受験し、Listening 455, Reading 480の計935点をマークすることができました。この結果に満足し、またこれ以上TOEICにこだわって勉強したところで英語運用能力が上がるとは思えなかったので、ここでTOEIC対策は完全に終え、論文読みを含めたより一般的な英語学習に戻りました。そして、現在に至っています。

 

 

4. おわりに

 TOEICは所詮、数ある資格の中の一つに過ぎない存在です。そして、ハイスコアを持っていて就活などで有利になることはあっても、それが必ずしも実際の英語運用能力の高さを示す指標であるというわけでは決してありません。婉曲な言い回しをやめれば、つまり、TOEICで900点を超えてもそれだけで流暢に英会話したりきちんとした英文を書いたりすることは決してあり得ません。スピーキングやライティングといったアウトプットは、その反復練習を以て初めて上達するものであり、TOEICのようなインプットの勉強でアウトプットの能力が保証されるわけがありません。それにそもそも、リスニング・リーディングと言えど、TOEICのハイスコアだけでは英語論文をパッと読み解くことも、現実の環境で誰かが喋っている英語を十全に聞き取ることもできません。+αの経験や知識が必要なのです。

 しかし、ハイスコアをとる過程の勉強、これ自体は非常に価値のあるものだと思います。ハイスコアをとるには英語の基礎学力が必要なのは自明です。英語の基礎学力、これを確立できることこそがTOEICのハイスコアに向けた挑戦の真価なのではないでしょうか。私はそう考えています。皆さんが何を目標としているのかは私には分かりませんし、目標というのは個々人によって多岐にわたるものです。しかし、ハイスコアをとるための努力はTOEICを超えて英語能力全般にプラスの効果を及ぼし得るはずであり、以て目標達成の助力となるはずです。是非、皆さんもTOEICはじめ英語の勉強を頑張ってください。応援しています。

 

 

 

生物系の院試に向けた勉強──自身が行った院試対策とオススメする勉強法

 こんにちは。京都大学大学院 医学研究科 医科学専攻に所属しているナマコです。本ブログ初の投稿です。

 はじめに簡単に経歴を紹介しますと、高校では生物非選択でしたが地方国立大学の生物系学科に進学し、そこから生物の勉強を開始。大学院進学にあたっては元所属大と京大(医学研究科・生命科学研究科)、総研大を受験し、最終的に現在所属している研究室へと進学を決めました。

 このような経歴の下、大学から生物を始めるという方を含め、生物系の学部生向けに院試関連の情報を共有したいというモチベーションで本記事を書きました。本記事がこれから院試を受ける皆様の一助となれば幸いです。

 

 

自身が行った院試対策の紹介

※本項では院試対策の内、英語については触れません。英語対策(というかTOEIC対策)については他の記事にて紹介します。

 

 一般に、大学で学ぶ学問の内容は高校までの内容を前提としています。私は生物にこそ昔から興味があったものの、高校では生物を履修しておらず、生物基礎止まりでした。そこで、大学入学後はまず、前期-夏休みにかけて高校生物を勉強していました。高校でもらった生物の図録を一通り読み、生物基礎・生物のまとめノート的なワークを買って一通り書き込みました。またこの際、1年前期に生物未履修者向けの生物学の講義が選択必修にあったので、それを履修していました(その内容はというと、高校生物における分子生物学らへんのところを扱う講義、及び生態学らへんのところを扱う講義、といったものでした)。

 1年前期の間にかなり簡単にではありますが高校生物をカバーできたので、後期からは講義面では専門科目が少しずつ始まったのでそれに取り組みつつ、Essential細胞生物学(南江堂、原書第4版)を買って読み始めました。当時、私が関心を寄せていた分野において東大のある研究室が魅力的だと感じており、そこへ進みたい、というモチベーションがこの行動の原動力だったと思います。もっとも、白状するとこれにはいわゆる院ロンダロンダリングと呼称されるものの、これ自体は決して悪いことではないはず……)、つまり大学受験の失敗を大学院進学の機会で埋め合わせたいという虚栄心的な動機もありました。今ではすっかり解消されていますし、研究に関しては大学名が最大の問題ではない(もちろん、有名どころの方が良いというか有利となる要素は色々ある)と研究を始めてからは常々感じていますが、当時はやはり東大というネームバリューに惹かれていたところがあったはずです。ちょっとネガティブな動機ではありますが、しかし、おかげで勉強に身が入ったのは事実ですから、今思うと結果オーライといったところでしょうか。さて、話は逸れましたが、Essentialについてはだいたい、1年後期-2年前期の頭ぐらいまでで1周通読し、その後は必修の専門科目をそれぞれこなしつつ、冬までゆっくりと2周目を読んで問題も解いていました。Essential細胞生物学の通読により、大学入学時には周囲よりハンディキャップがあった身ではありましたが、こと分子生物学についてはこの時点で基本を抑えることができたと感じています。また、専門科目は分子生物学含め様々な分野がありましたが、せっかくなので講義資料や使用した教科書についてはこれも通読するようにしていました。

 上述のように、Essetialを2周もすればさすがに基礎はある程度できただろう、と感じたので、3年に上がるタイミングで細胞の分子生物学ニュートンプレス、第6版)、いわゆるThe Cellに足を踏み入れました。これもとりあえず通読しようと試み、3年の冬ぐらいに読み終えました。元所属の学科では3年後期の段階で研究室配属があるため、研究活動が生活に加わり、講義・バイト・研究の三拍子で生活が忙しくなりました。そのため、前期では結構良いペースで読み進められていましたが、秋の終わり-冬くらいは読むペースが下がっていた記憶があります。論文も読み始めましたし。なお、The Cellの場合はEssentialと異なり、分量が多くて面倒くさかったり、時間がかかったりすることから、問題を解くことはしていませんでした。ただし、問題の内容は思考を問うようなものが多かった気がするので、十分な余裕さえあれば、院試の問題のつもりで解くというのはありだったかもしれません。ともあれ、無事に通読すること自体はできたので、4年を迎える前に分子生物学の教科書的な知識面を固めることができました。加えて、2-3年の辺りで院試対策に関して情報収集していた際、生化学・分子生物学演習 第2版(東京化学同人を解くと良いという記事を幾つか目にしたので、これも3年頃からぼちぼち解き進め、4年頭頃でようやく一通り解いた覚えがあります。しかしながら、この問題集に関しては難易度が高く、生化学に関しては実験・測定原理の物理的側面に踏み込んだり、扱うテーマ自体はメジャーでも設問の内容が異様に細かかったりといった具合でした。変にこだわって一周全部やるのではなく、必要そうな分野の必要そうな問題だけ解けばいい気がします。少なくとも私の場合、The cellの内容はある程度頭に入れられたので、この問題集を使って院試対策するメリットは感じられませんでした。

 さて、所属大学の他にも外部の院への進学も検討しているということで、4年の3月あたりからは研究室訪問を始めました。理系、少なくとも生物系に関しては、外部院進するならすべからく研究室訪問するべきです。私の場合、とりあえず興味のあった研究室へ、計6箇所訪問しました。なぜ研究室訪問すべきなのかに関しては、既にたくさんの記事がネット上に転がっていますが、私からも別記事にて紹介することとしてここでは省きます。研究室訪問後、色々と勘案して志望先を絞り込みました。私の場合はここで、所属大学(つまり所属研究室でそのまま修士に上がる)に加え、京大医学研究科・生命科学研究科(医学研究科の研究室は生命科学研究科からも入れるところがあるので、生命科学研究科の受験は滑り止め用です)、総研大(基生研)を受験することに決めました。また、このように4年ともなるとかなり忙しさも増してきますが、勉強の方では3年の冬-4年の5月くらいまでにかけて、The Cellの内容をFig.をすべて見返すと共に各節・章のまとめを読み直すというかたちでざっくりと復習しました。その後、研究の傍ら大学院の説明会への参加や必要書類の記入・出願をすると共に、6月からは毎週末に過去問を解いていました。この際、院試の過去問というのは通常答えがついていませんから、1年分一通り解き終えたら教科書(主にはThe Cell)、あるいは教科書で対応できない部分は自分でネットを調べて自分なりの解答を拵えていました。確か、それぞれの院試までに京大医学研究科と生命科学研究科の過去問を5年か6年分ずつ(というか入手できた上限数)、所属大学の過去問を2年分くらい解いた覚えがあります。総研大の入試は特殊なので、特に勉強はしていませんでした(私の外部院進先の院試について、その個別的な対策の詳細と体験談については、別の記事で情報共有します)

 以上のようにして院試対策を行い、夏以降の院試に臨みました。結局、私の院試対策は過去問以外で言うと分子生物学の知識習得と理解の徹底がメインでした。なお、ここまでで書き忘れていましたが、The Cellで詳しく扱っていないが院試で頻出の生化学・代謝分野については、講義で使用したベーシック生化学(化学同人が手軽ですがしっかりまとまっていたので、これを頼りました。更に、より化学的なところ、有機化学に関してはこれもあまり深掘りせず、講義で使用したマクマリー有機化学概説 第7版(東京化学同人を用いた勉強に留まりました。生化学とか有機化学とかにはそこまでモチベーションがなかったので、EssentilalやThe cellに相当するような成書は読んでいません。また、発生学や遺伝学、生理学、神経科学なども分厚い教科書がありますが、これらの分野についてもそういったものには触れませんでした。私が読んだ分厚い教科書はThe Cellだけです(少なくとも院試対策という観点においては、本格的な教科書をたくさん読めば良い対策になるというわけではない)。ともあれ、このような院試対策の結果、すべての受験先において合格できた他、これは入学後に知ったのですが(要は非公式で人伝なため、正確性のほどは定かではない)、現所属の医科学専攻では受験したその年において1位で入学できました。つまり、これは生物のみならずここで説明していない英語についても同様なのですが、私は大学の4年間で長期的に勉強を継続することにより、それこそはじめはド素人だったり、勉強の要領が良くなかったりしても、最後には院試にきちんと太刀打ちできるだけの学力を身につけました。末尾に書くのもなんですが、身も蓋もないことを言ってしまえば、エッセンスの部分は普遍的な受験勉強のそれと何ら変わらず、特別な勉強法なんかも採用していないので、私の院試対策の体験談は切羽詰まった学部4年生向けではありません。そのような方は過去問を中心に据えた上で取捨選択して効率よく勉強し、受かるための最短経路を念頭に置いて院試対策するべきかと思います。ラストスパートを頑張りましょう。そうでない方につきましては、やはり生物というと覚えるべき事柄が多くなりがちですし、生命現象は本当に複雑で奥が深いので、コツコツと勉強しておくと後が楽だし、研究生活も楽しくなると思います。ゆっくり少しずつで良いので、頑張ってください。継続は力なり、です。

 

 

 

一般的な生物系の院試対策としてオススメする勉強・参考書の紹介

院試対策にあたってオススメする勉強法

 さて、上記の書きっぷりを見ると、あたかもThe Cellレベルが院試に要求されるかのように感じるかもしれませんが(実際、大学教員の中には講義などを通してThe Cellを読むことを推奨する方もいらっしゃるのではないのでしょうか)、そんなことは全然ないです。院試に求められる知識・理解というと、せいぜいがEssentialレベルです。試しに京大 医科学専攻の募集要項(https://www.med.kyoto-u.ac.jp/apply/exam/requirements_mmg/medicalscience_mc/)を確認してみると、要項のpdf(2024年度版)には次のような記載があります。

『◇基礎生物学の概要:細胞、動物個体の基本的な成り立ちを問うものであり、Essential Cell Biology (Garland Publishing Inc. New York & London) などの代表的な教科書に記載されている程度の基礎生物学の理解を求める。複数の設問から任意の 1 問を選択し、解答するものとする。』

"Essential Cell Biology"、これは当然Essential細胞生物学の原著ですから、やはり基準として教科書が挙げられるとしたら、およそEssentialレベルまでなのでしょう。実際、生物系の院試というと、分子生物学に相当する部分の問題が重く、次いで生化学、その他は種々雑多の専門科目……という構成のテストが多いように見受けられます(少なくとも私が受けたり過去問を確認したりした範囲では)。なので、細胞の分子生物学を扱っているEssentialは対策の上で大変都合が良いわけです。ただし、『基礎生物学の理解を求める』という記載が示唆するように、問題のレベルは単にEssentialを読めばそれで満足なものだとは限りません。単に読んで知識として吸収するのではなく、その内容を理解して活用する力が求められる問題というのが、時として出題され得るということです。ちなみに、余裕がある場合にThe Cellレベルまで進むと何が良いのかというと、このようなEssentialのレベルより高めな問題に対してより深く学んだ知識の量でゴリ押しできることが多くなるという点、あるいはEssentialには収録されていない分野、しばしば専門科目に分類されるものに関しても知識をつけられるので自然と専門科目の勉強にもなるという点、あたりが挙げられます。なので、生物系の院試にむけて本格的な対策をするなら、まずはなによりEssentialをきちんと読んで理解するということが重要になるでしょう。その上で、もっと知っておきたい部分や、Essentialにない部分に絞ってThe Cellを読んだり、他にも数多ある良書を読んで勉強すれば良いと思います。そして、力をつけたら後は過去問演習。院試も大学受験などと同様で、結局何か特定のテストを受ける以上、頻出分野に精通したり形式に慣れたりして、受ける予定のテストに対して自身をカスタマイズすることが攻略の肝となるはずです。

 つまるところ、『Essential細胞生物学の読み込み → (The Cell含め)院試に出るEssentialでカバーできないところの個別的な勉強 → 過去問演習』と一見すごく単純ですが、この流れでの勉強というのが、現在の私が考えるオススメの生物系院試対策です。

オススメの参考書

※版については今後更新される可能性があるため、ここでは特に指定して表記していません。また、筆者は分子生物学を中心として勉強しており、生態学や遺伝学、免疫学などの知識には疎いなど、分野間での偏りが激しいです。ピックアップした参考書もこの部分に引きずられているところがあります。ご了承ください。

 

  1. Essential細胞生物学(南江堂):生物系院試、特に分子生物学の範囲に対する教科書の王道。上記の通り、これをマスターすれば後はその知識・理解を活用して難しい問題でも結構食らいつけるはず。良くまとまっているわりにはそんなに値段も高くないので、是非これで勉強してほしい。
  2. 細胞の分子生物学ニュートンプレス分子生物学の教科書の金字塔、言わずと知れたThe Cell。受験前から博士取得(つまり博士後期課程まで進学して研究し、論文を出版する)を目指しているなら、是非とも早いうちに(研究で忙しくなる前に)読んでおくと良いのでは。Essentialよりもよほど情報量が多いが、その分リーダビリティは落ちているし、高くて重い。必要な章だけ電子版で買うのも一手。これを読めば細胞のことが高解像度で分かる、と思えるかもしれないが、実際のところ研究の上ではこういった教科書の内容はせいぜい前提に過ぎないことを意識の片隅に留めておくと良い。教科書の元となる論文は教科書より総体としては圧倒的なボリュームを誇るし、真偽が入り混じっている。結局、生物を深く理解することが簡単なわけがない。
  3. ベーシック生化学(化学同人:EssentialやThe Cellではあまり代謝・生化学に踏み込んでいないが、院試ではしばしばこの分野から出題される。だいたい、この教科書くらいの内容が理解できてある程度重要なところの暗記もできていれば、それで院試対策としては十分だと感じる。多少Essentialなどと重複するところもあるが、そこは飛ばせばいいだけで、大半の部分は生化学に関してコンパクトによくまとまっており、院試対策に便利というか必要十分なサイズという印象。
  4. 基礎から学ぶ遺伝子工学(羊土社)遺伝子工学もしばしば院試では出題される。遺伝子工学の技術について分かりやすく説明がなされており、さっと学習するには良いサイズ。実験技術に関する説明がなされているという点はEssentialやThe Cellにも通じるが、それらよりも一層実験技術にクローズアップしているのが良い点だろう。これは本書に限らず、羊土社の教科書・参考書の強みだろう(そもそも、実験医学の月刊誌を発行しているのは羊土社である)。
  5. ベーシックマスター発生生物学(オーム社:発生生物学とあるが、それに関連して幹細胞やエピジェネティクスも取り扱っている。ベーシックマスターシリーズはかなりコンパクトに情報がまとまっているので、自らの専門分野における参考書としては明らかに物足りないが、院試対策などの用途であればかなり便利。発生・幹細胞・エピジェネティクスもしばしば院試で出題されるので、このような教科書を使ってみるのも一つの手だろう。
  6. バイオインフォマティクス入門(慶応義塾大学出版会):参考書と問題集のあいのこ、といった感じの書籍。見開き1ページで1つの項目なので、説明のボリュームは多くない。しかし、簡潔な反面で要点を抑えており、少々難しい内容まで盛り込んでくれているので勉強になる。一口に生物系と言っても、最近だとものによってはバイオインフォマティクスが専門科目の問題に入り得る。過去問にバイオインフォがあったり、バイオインフォの問題で得点したいなら、院試対策として読んで損はないだろう(ボリュームが多くなく、短期間で終えられる)。バイオインフォ・計算機科学に加え、構造生物学や統計に関しても少し載っており、わりと実用的。暇さえあれば、バイオインフォマティクス技術者認定試験を受けても面白いかもしれない。この参考書を活用すれば、結構容易に資格を取れる。
  7. 生化学・分子生物学演習(東京化学同人:内容は正直難しい。The Cellと同じで、院試に受かるだけなら、敢えてこれをやる必要はない。後、もちろん生化学そのものは重要だし、その堅実さを反映しているとも思うのだが、どうにも内容が古臭く感じられてしまう。ともあれ、これを用いるなら既に上に書いたように、おしなべて問題を解く必要はなく、必要なところだけ利用すれば良いと思う。また、解くことを目的とするのではなく、設問と解答を見てそれで知識を得る、という使い方も十分ありだろう。大学院によっては、公開されている過去問の年数が少なく、そのために過去問だけだと満足に問題を解く経験を積めないこともあるだろう。そういう場合には、こういった問題集を活用して練習するのは良い手なのかもしれない。もっとも、他の大学院の院試過去問(サイト上にフリーで公開されているものもある)で似たようなものを探して解けばいいだけのことなのだが。
  8. 論文図表を読む作法(羊土社):おまけ。バイオインフォマティクス入門のような形式で、実験技術などを広範に説明した書籍。名前からして分かると思うが、研究室配属前の学部生よりも、むりそ配属後の学部生や院生が読んでいて恩恵があるタイプの本。とは言え、院試というと(実際は院試に限らず、大学入試などもそうなのだが)実際の実験を題材にしたり、実験結果を提示してそれを用いて解答させるといった手の問題も結構出る。そういった類のものに応対する際、この本を読んでおくと恩恵はあるだろう。ただし、これは本当におまけで挙げただけで、院試後にこそ目を通してみてほしい。

 

 以上、あれこれと書いていたら長くなってしまいました。老婆心でつらつら書きましたが、こんな文章であっても誰かのお役に立てれば幸いです。院試などものともせず、研究生活を楽しんでいきましょう。