TOEICのスコアが900点を超えるまでの経緯

 こんにちは。生物系大学院生のナマコです。大学院進学にあたりTOEIC L & R(以下、TOEICと表記)のスコア提出が必要であったため、大学在学時にはTOEIC対策の勉強にも幾らか取り組んでいました。大学の過程上必須であったTOEIC BridgeとTOEIC IPの受験(Bridgeは入学直後に1回、IPは確か2回やった覚えがあります)を除いては個人で3回受験し、最終的には4年に上がる直前、3年の3月に受けたテストで935点を獲得することができました。本記事では、TOEICのスコアで900点を超えるまでの経緯とその過程で行っていた勉強について紹介します。

 

 

1. 大学入学時の英語力とそれまでの英語学習

 今でこそ英語学習は結構習慣化してますし、勉強もそこそこ楽しんでやっているのですが、この現状に至るには浪人・大学時代の生活が不可欠でした。翻って、高校まではろくに勉強していませんでした。そこから英語学習を意識し始め、大学入学時には確かセンター試験(現:共通テスト)の英語で8割程度をとる程度の英語力までには到達しました。その過程で得た気づきを共有したかったので、あえて大学入学前の英語学習についてここで触れておこうと思います。

 私が在籍していた高校はいわゆる自称進学校で、そういった雰囲気の公立高校に滑り込み、ずっと底辺にいました。経験しているのでよく分かるのですが、この層の人間は、基本的に度を超すほど怠惰であるというか、自己管理能力がかなり低いことがしばしばです。実際、当時の私はろくすっぽ努力した経験もなく(あってもその程度が低い)、自己管理能力が(これは今になってもですが)相対的にかなり低い。更には知り得る世界の幅が狭いので、何事にも極めて楽観的であまり苦を伴う努力はせず、努力を諦めてすらいる、といった有様でした。また、生活リズムが破綻していたので、慢性的な睡眠不足の下よく授業中に寝ていました。故に、学校側から幾分多めに課題を出されたり、小テストなどで学習の進捗を細かく管理されたりする(いかにも自称進学校らしい)環境であっても、ろくに学力は向上しませんでした。ただ、印象深いのは高校2年か3年のどこかで英語と日本語で似通った表現があることを知ったことで、これが英語学習に面白さを見出す転機になったと思っています。この記憶は間違っている気もするのですが、教科書か参考書か何かで、"make a mark"の日本語訳が『目星を付ける』だったこと、これを見てなぜか妙に納得したことがきっかけでした。その後、これは大学受験の英語だと結構有名だと思いますが、『一石二鳥』が英語では"Kill two birds with one stone"とまったく同じ言い回しであることなどを知り、言語の繋がりや歴史に対してやおら興味を持つようになりました。実際、『目から鱗が落ちる』なんかもその表現の由来は聖書ですし、表現の輸入の歴史は結構面白いものです。ただ、関心を寄せて英語学習に取り組み始めるのがあまりに遅かったことから、さして学力が上がるはずもなく、なるべくして浪人生になりました。

 壊滅的な状況からセンター試験でとりあえず8割は取れるところまで到達できた背景には、浪人している間に基礎を学び直せたことがありました。上述のように、高校生の頃はろくに授業や課題に取り組んでいなかったので、高校英語の知識には相当な穴がありました。そうでなくとも、授業自体がなぜか(少なくとも英語表現とコミュニケーション英語の内、後者は)英語で行われており、あまり文法などをしっかり解説するといったものではありませんでした。小テストで単語・熟語や文法・語法を確認するので、課題を通して各自勉強しておいてね、といったスタンス。そうした中でまともに課題に取り組んでいなかったので、高校英語の知識が相当に怪しかったわけです。中学英語なら何とかなるが、高校英語となると厳しい。そんな状況を反省し、浪人時は基礎から復習しました。

 浪人生の頃の英語学習ですが、言語の基本はまず単語と文法だろう、と考え、高三になって使い始めたターゲット1900(ターゲット編集部 編、旺文社)をスローペースではありましたが3周程度して、まず英単語をある程度は覚える(理解する)ように努めました。同時に、総合英語 Forest(石黒昭博 監修、いいずな書店)を頼りにしてその他の参考書、例えば基礎 英文解釈の技術100(桑原信淑・杉野隆、桐原書店なども用い、英文法を勉強しました。加えて、アウトプットを通して単語の確認や文法・語法の習得を行うため、英文法・語法 Vintage(篠田重晃・米山達郎、いいずな書店)を解いていました。英作文についても、一応ではありますが基礎英作文問題精講(花本金吾、旺文社)で勉強しました。総合英語(=高校英語の文法書?)と文法問題集は高校の頃のものでしたが、上に挙げた教材をちゃんと復習して土台を固めたらそれなりに受験英語ができるようになったので、やる気がなかっただけで勉強環境は結構恵まれていた高校時代だったんだな、と反省しています。さて、その後はセンター試験や二次試験の対策に移っていったわけですが、これは簡単で、定法に則り過去問演習を主に行っていました。ただ、高三の頃のそれとは打って変わり、浪人時の過去問演習からは学ぶところが多くあり、数をこなす中で問題点とその原因を見つけて改善し、より高得点を狙うという一連のプロセスを久しぶりに体験できました。成功体験はモチベーションの面で重要ですが、これは実に、中三以来だったのではないでしょうか。幸い、読書好きだったおかげか私は英語長文を読むことについて(正しく読めているか否かという問題はさておいて)あまり抵抗がなかったので、長文問題にウェイトが置かれがちな受験英語とは相性が悪くなかった方だと思います。この要素は結構受験の上で大きく、色々問題があったし浪人生の身ながら勉強量が多くはなかったものの(なにぶん勉強習慣とは無縁になって久しい上、生活リズムを整える点でも労を要するといった体たらくでした)、地方国立大学に滑り込めました。浪人時代にある程度勉強習慣を身につけられた(取り戻せた)こと、大学に拾ってもらえたことがなければ現在の英語学習を継続する生活はあり得ず、従って今の私というのは、その大部分が運が良かったという点に依っています。そして、これこそがここで是非とも伝えておきたいことなのですが、大学受験までの英語学習(中学英語・高校英語)はよくできており、英語学習の土台、すなわち基礎となります。これが基礎であり、基礎を固めることではじめて効率良く学習できるようになります。英語の運用能力を上げたいのであれば、かつての私のようにサボったり、ほったらかしにしないでください。

2. 大学在学中に行っていた英語学習(TOEIC受験前)

 大学に入って最初の年はこれと言って英語学習を意識してはおらず、せいぜい必修の英語の講義はきちんと受講したぐらいで、専門課程に入るまで1年間のモラトリアムを楽しんでいました。一応、当時は院進の他、将来学部卒で就活する可能性も結構検討していたため、少なくとも在学中にTOEICで良い点取っておいた方がいいな、とは既に考えていました。そうしたところ、院試の記事で書いたように途中で東大の大学院(農学研究科)に行きたいと思うようになったので、この際にTOEFLの勉強も考え始めるようになりました(入試でTOEFL-ITPを受験する必要があるため)。そこで、とりあえずは単語学習だけでもやっておこうと思いなおし、書店で単語帳を幾つか見てみました。TOEIC対策の単語帳というとTOEIC L&R TEST 出る単特急 金のフレーズ(TEX加藤、朝日新聞出版)が有名ですが、パッと目を通して好みではないと直感したこと、TOEIC Bridge/IPでTOEICの試験自体が好きではないこと(そもそもTOEICのような内容の問題を解くのが好きな人はいるのだろうか?)からこれで勉強することはやめました。代わりに、TOEFLテスト英単語3800(神部孝、旺文社)が難易度やボリューム的に自分にとって必要十分と感じたこと、これまで取り組んできたターゲット1900と形式が近く親しみやすさがあったことからこちらで勉強することに決めました。大は小を兼ねる的発想で、これでTOEICもいけるだろうと踏んでのことでした。もっとも、この選択は正解だったと思っており、TOEFLの方が単語の幅が広く、結果として試験対策に限ったものではなく、対策としては効率が落ちてもより活用できるかたちで英単語学習を積むことができました。このこともあり、目的に対して適切な勉強法というのは常々存在しますが、一方で時間的に余裕があるならば、参考書は幾つか試してみてフィーリングで決めてもいいと私は考えています。自分の中でこれくらいの質であれば勉強に用いるに値するという閾値を定め、自分にとってやりやすい参考書を決めたらそれを用いてちゃんと勉強すること、これが肝要なのだと思います。

 2年に上がったところで、専門科目が始まると共に、せっかく勉強態度を改めて大学に来たのだし、そろそろ勉強に力を入れた方が良いだろう、と感じるようになりました。この頃には英語学習にも結構関心が湧いてきていて、書店で以前よりも広範に英語学習に関する本を探すようになっていました。TOEFL 3800もだいたい1周終えたくらいのある日、ふと書店で英単語の語源図鑑(清水建二・すずきひろし・本間昭文、2018年、かんき出版)を見ては好奇心を搔き立てられ、これと続 英単語の語源図鑑(清水建二・すずきひろし・本間昭文、2019年、かんき出版)を用いた単語学習に一旦切り替えました。以前より英単語の構造には興味があったため、この単語帳は自分にとって適したものでした。収録単語でいうとそのほとんどが既習でしたが、それまでより一層単語のかたちと意味のイメージを意識するようになり、英単語への理解が深まりました。このように、英単語学習では進展があったのですが、英文法はというと特にありませんでした。むしろ、流石に浪人時から1年経っているので知識に不安がある、ということで復習に徹していました。具体的には、高校の頃のForestの後継、総合英語 Evergreen(墺タカユキ 編著、いいずな書店)を購入して通読しました。英文法の基本的な理解については、正直、高校英語までで十分である。これが私の考えです。また、誰かがブログで紹介していた日本人の英語(マーク・ピーターセン、1988年、岩波新書に興味を持ち、この本及び続 日本人の英語(マーク・ピーターセン、1990年、岩波新書も読んでいました。刊行こそ少し古いものの、これらの新書は要点がコンパクトにまとまっており、かなり勉強になりました。結構オススメの一冊です。

 単語・文法についてはある程度勉強も進んだ一方、リスニングに関しては苦手なこともあり、あまり勉強していませんでした。せいぜい、センターなどの過去問演習の際にシャドーイングをしていたぐらいのものでした。大学に入ってからのリスニングの勉強はというと、主には英語の映画や動画(YouTubeやTED、BBC Newsなど)を視聴するというありきたりなものが中心でしたし、その頻度もまばらでした。ただ、TOEICTOEFLを見据え一応試験問題としてのリスニングも解けるようにならなければ、との思いで(結局、TOEFL ITPは受けませんでしたし、iBPを個人で受験することもありませんでしたが)東大の英語リスニング20ヵ年(武知千津子 編著、教学社)を用いて勉強しました。はじめにリスニング問題を解いて、次に答え合わせとシャドーイングを行うといったかたちで、散発的にこなしてなんとか1周終えた覚えがあります。シャドーイングの機会を増やせたのは取り組んで良かった点だと思います。ところで、シャドーイングというとただ喋るのではなく音声の発音を真似ることも大事であり、正しい発音を知り意識することでリスニング力向上にも繋がる、といった感じのことが様々なリスニングの学参に書かれています。確かに一理ある。そこで、私はシャドーイングに加え、英語の発音自体も学ぼうと考えました。ここで手に取ったのがたまたま書店で1冊だけ残っていたフォニックス<発音>トレーニングBOOK(ジュミック今井、2005年、明日香出版社)でしたが、このフォニックス学習を通した英語発音の理解は大変有用でした。この本もオススメです。中学・高校の学習ではここに挙げたような単語の語源(成り立ち)だとかフォニックスだとかはさして注目されませんが、少なくとも私の場合、このような知識の習得は英語学習を確実に加速させてくれました。

 振り返ると、TOEICを個人受験するまでには以上のような英語学習をしていた覚えがあります。色々と書きましたが、何もこれらを短期集中で行ったわけではなく、上に挙げたものを2-3年前期の1年半を通し、休み休みのんべんだらりと継続して勉強していました。また、中には初受験時にはやり切れていない教材も幾つかあったはずです。ともあれ、このような具合で英語学習を自主的に進め、3年の7月に初の公開テスト受験を迎えました。その結果はと言うと、Listening 360, Reading 415の計775点でした。英語学習を始めるのが遅かった身ではありましたが、大学でBridge/IPを受けていて既に形式を知っていたこと、基礎学力を重視して要点を絞って学習したことが功を奏したのか、初受験でもそれなりのスコアを獲得できました。

 

 

3. スコアを上げるために行ったTOEIC対策

 思ったより良いスコアを取れた一方で、もうちょっと頑張れば800点と次の大台に乗れること、残りの院試までの期間を踏まえれば900点以上の獲得も十分達成可能であると思われたことから、この辺りで意識を切り替え、TOEICで点を取るための勉強も始めるようになりました。(英語に限らず)大学受験などの経験を踏まえれば、基礎知識があらかた身についているならば(ここが効率の良さを左右する)、後はアウトプットを通してその知識の使い方を身につけること(あるいはインプットとアウトプットを同時進行でこなして学んでいく)、過去問・模試を解いて自らを任意の試験に対してチューニングすることでスコアが伸びていくはずです。そこで、とりあえず公式TOEIC Listening & Reading問題集 1(一般財団法人 国際ビジネスコミュニケーション協会を購入し、収録されている模試2回を解いてから再度TOEICを受験することにしました。最新刊ではなく1番目の問題集を選んだのは、もしかしたら複数冊購入して解くかもしれないし、それなら初めからの方が良かろう、という思惑があってのものでした。内容としては模試と簡単な解説があるだけのシンプルなものでしたが、解いた後に自分のペースで納得するまで答え合わせができたこと、どこが苦手でどう対策すればいいのかを考えられたことは非常に為になりました。そして、初受験より2ヶ月後、9月に2回目の受験をしました。非常な腹痛に襲われ一時退室、リーディングで数分のロスを強いられるという不幸にも見舞われましたが、結果はListening 385, Reading 455の計840点でした。予想が的中し、模試を通したTOEIC用の対策を積んだらわりあい簡単に800点を超えられました。生物系の院試ではこれくらいの点数があれば、国内のどこであってもそれなりに戦えるだろう、と当時は思っていましたが(実際はこれくらいが求められるところはかなり少ないと思います)、ここまで来たら900点もかなり近いし、せっかくなら9割(990 x 0.9 ≒ 890)以上を取って満足してからTOEIC受験を終えたいとも思うようになりました。そこで、まずは自身の問題点を整理すると共に、更にTOEIC専用の勉強を積むことにしました。

 

 

 この時点で、私のTOEICの出来は次のようでした。1. リスニング能力(特に日本語・英語を問わず瞬間的に聴覚情報を処理する能力)が低く、セクション2の問題での正答率が低い。 2. 一方でセクション3・4はセクション2よりも幾分か文が長い上、文脈から判断できたり複数回答えが示唆されたりするのでそこそこ正答できる。 3. リーディングに関しては、英文を読んで理解すること自体は問題ない。ただし、その読んで理解するスピードが遅いため、しばしば制限時間内に最後まで解き終えることができない。これらの点を改善すべきだという意識の下で書店で公式問題集以外の模試・対策本を見て回り、TOEIC L & Rテスト 究極の模試600問+(ヒロ前田、2020年、アルクが自分に合いそうだと判断したのでこれに取り組みました。ここまでくると本当にTOEICという試験をハックする領域に到達しており、ちょっと抵抗感はありつつも(せっかく英語の勉強をするなら『TOEICができる』で終わらせるのではなく、英語を広く使えるようになりたいという思いがある)、おかげでTOEICで点を取るためのコツ・tipsといったものを多く身につけることができました。このような参考書は、はじめからむやみやたらと取り組むのではなく、伸び悩むところで活用することでこそ真価を発揮するのだと思います。

 同時に、大学生活の方はと言うとこの頃から研究室配属があり、論文を読むことを通して英文に触れる機会が増えました私は論文は基本英語のまま読んでいくスタイルです。初めこそ専門用語や科学論文によく見られるようなちょっとお堅い言い回しもあり、読んで理解するまでにはかなり時間がかかっていましたが、慣れてきたら案外、英語のままでもさほど抵抗なく読めるようになりました(データや理屈の解釈には時間がかかりますが)。論文を読むことよって英語長文に慣れ、つまりは読むスピードが上がりました。文の内容や難易度がTOEICのそれとはまったく異なることは明らかですが、副次的にTOEIC対策となりました。このような対策を積んだ上で、最後、春休み中の3月に3回目のTOEICを受験し、Listening 455, Reading 480の計935点をマークすることができました。この結果に満足し、またこれ以上TOEICにこだわって勉強したところで英語運用能力が上がるとは思えなかったので、ここでTOEIC対策は完全に終え、論文読みを含めたより一般的な英語学習に戻りました。そして、現在に至っています。

 

 

4. おわりに

 TOEICは所詮、数ある資格の中の一つに過ぎない存在です。そして、ハイスコアを持っていて就活などで有利になることはあっても、それが必ずしも実際の英語運用能力の高さを示す指標であるというわけでは決してありません。婉曲な言い回しをやめれば、つまり、TOEICで900点を超えてもそれだけで流暢に英会話したりきちんとした英文を書いたりすることは決してあり得ません。スピーキングやライティングといったアウトプットは、その反復練習を以て初めて上達するものであり、TOEICのようなインプットの勉強でアウトプットの能力が保証されるわけがありません。それにそもそも、リスニング・リーディングと言えど、TOEICのハイスコアだけでは英語論文をパッと読み解くことも、現実の環境で誰かが喋っている英語を十全に聞き取ることもできません。+αの経験や知識が必要なのです。

 しかし、ハイスコアをとる過程の勉強、これ自体は非常に価値のあるものだと思います。ハイスコアをとるには英語の基礎学力が必要なのは自明です。英語の基礎学力、これを確立できることこそがTOEICのハイスコアに向けた挑戦の真価なのではないでしょうか。私はそう考えています。皆さんが何を目標としているのかは私には分かりませんし、目標というのは個々人によって多岐にわたるものです。しかし、ハイスコアをとるための努力はTOEICを超えて英語能力全般にプラスの効果を及ぼし得るはずであり、以て目標達成の助力となるはずです。是非、皆さんもTOEICはじめ英語の勉強を頑張ってください。応援しています。